解剖学の概要
解剖学(Anatomy)とは
人体の構造に対する知識は、生理学や組織学に関わらず、すべての医学分野の学習において欠く事のできないものでありトレーナーやスポーツ指導者にとっても重要な学問である。
解剖学を学ぶ上で大切なこと
例えば、肩関節の動きが悪いスポーツ選手に対して
肩関節の動きを制限している筋肉を探し出し、リリースやトレーニングを行ったりすることは一見正しいことのように思えますが(過去の自分もそうでした)根本的な理由は、もっと他の部位から発生していたり思いもよらぬ理由からエラーが生じていることが多いです。
Joint by Joint理論
それをしっかり見極めるためには、解剖学をより大きな視点で捉えること。身体はシステマティックに動いていることを意識することがとても重要になります。
個々の筋肉や関節(木)ばかり見ずに、身体全体(森)の動きを分析できるようになりたいですね。
基礎知識
身体の区分
人体の表面は骨や筋の盛り上がりやくぼみを指標として区分され、それぞれの名称がつけられている
- 頭部
- 頸部
- 体幹(胸部・腹部・骨盤)
- 上肢(上肢帯・上腕・前腕・手)
- 下肢(下肢帯・大腿・下腿・足)
体内の腔所
体腔とは
主要な体腔一覧
- 頭蓋骨
- 脊柱管
- 胸腔
- 腹腔
- 骨盤腔
骨
骨格を形成する組織が『骨』である。骨は体重の約15~18%に相当する重量がある。
人体の骨格(靭帯の骨組み)は約206個の骨から成り立っている。新生児は約350個の骨があると言われているが、成長と共に一部の骨が癒合していく。
※骨の数には個人差がある
(尾骨の数に違いがあることが多い)
骨はその配置から
『体軸骨格』と『付属骨格』に分けられる。
- 体軸骨格とは?
-
身体の中心に位置する
頭蓋骨・肋骨・胸骨・椎骨が含まれる - 付属骨格とは?
-
上肢・下肢の骨に相当する
上記は配置によって区別しているが
『形状』によっても分類が可能である
骨の役割
骨の役割は
- 付着する骨格筋の収縮による運動の力学的基礎として働く
- 軟骨や繊維性軟骨とともに骨格を形成し、身体と体腔の構造を支持する
- 脳や臓器などを外部の衝撃から保護する
- 体内のカルシウム量(体重の約1.5%)の99%を貯蔵する
- 骨髄で血球を生産する(造血作用)
形状から見た骨の種類
- 長骨
長い管状の骨と幅のある突出した骨端からなる骨。骨幹の中には骨髄がある。 - 短骨
通常1つ以上の骨と関節を構成するために、比較的大きな関節面を持った小さい骨。 - 扁平骨
弯曲した面を持ち、腱が付着するような厚いものから薄いものまである板状の扁平な骨。 - 含気骨
骨の内部に空洞を持つ(含気洞) - 不規則骨
上記に当てはまらず、不規則な形をした骨であり、多様な目的を持っている。 - 種子骨
筋腱単位の機械的効率を上げるために腱の中に埋め込まれた小さな骨。
骨の構造
骨は
- 骨膜
- 軟骨質
- 骨質
- 骨髄
から構成される。また形状によって成り立ちが異なる。
長骨では中央部を骨幹、両端を骨端という。
・骨膜は外層の繊維層と内層の骨形成層から構成される
・知覚神経および血管が多い結合組織性の膜で、骨の外側を覆っている。骨端では関節包に移行
・骨膜はシャーピー繊維によって骨と結合しており、骨の横軸方向の成長に関与している
・関節軟骨と骨端軟骨からなり、いずれも硝子軟骨によって構成される
・関節軟骨は骨の関節面を覆い、骨同士の接触の衝撃を和らげる作用を持つ
※関節軟骨は血管やリンパ管が存在しないため、滑液によって栄養が補給される=回復速度が遅い
・骨端軟骨は骨端と骨幹の間にあり、骨の縦軸方向の成長に関与する。
※青年期以降は成長が止まり、骨端線となる
・緻密骨と海綿骨からなる。
■緻密骨・・・骨表面の緻密な骨質で、骨単位が集まって形成
■海綿骨・・・骨内部のスポンジ状の骨質であり、骨梁によって形成される(方向に規則性有)
・骨質の内部には髄腔という空洞があり、その中には骨髄によって満たされている
・長骨の髄腔や、他の形状の骨の海綿質の関隙を満たす組織で造血作用を持つ
※造血作用を持つ骨髄は赤色(赤色骨髄)だが、思春期以降では造血作用が低下し脂肪組織に置換される(黄色骨髄)
頭蓋骨・胸骨・椎骨・寛骨では成人においても赤色骨髄として存在していることが多い
■骨単位
・骨質の組織は、顕微鏡で見える骨単位からできている。
→骨単位はハバース管を中心とし、骨層板が木の年輪状に取り囲んだものである。
※隣り合ったハバース管同士を結ぶ管をフォルクマン管という。
- 骨端線
- 海綿質
- 骨髄腔
- 緻密質
- 骨髄
- 皮質骨
- 骨膜
より詳しい『骨』の仕組みは下の記事をチェック!
骨の形状を表す用語
顆:か(丸い出っぱり、特に関節面) | 果:か(丸い突起、特にくるぶし) |
稜:りょう(骨の尾根) | 切痕:せっこん(骨のへりの切れ込み) |
上顆:じょうか(顆の上方の出っ張り) | 隆起:りゅうき(突出部) |
面:めん(平坦部、特に関節の平滑面) | 棘:きょく(トゲのように突き出た部位) |
孔:こう(骨を通る穴) | 転子:てんし(大きな太い盛り上がり) |
窩:か(中空あるいはくぼんだ領域) | 結節:けっせつ(盛り上がった部位) |
線:せん(線状の隆起) | 粗面:そめん(ざらざらした面) |
筋
筋肉の種類
筋の種類
筋の種類 | 主な機能 | 横紋構造の有無 | 支配神経 | 随意性の有無 |
---|---|---|---|---|
骨格筋 | 身体運動と姿勢保持 | ○ | 体性神経 | ○ |
平滑筋 | 臓器の運動 | 自律神経 | ||
心筋 | 心臓のポンプ作用 | ○ | 自律神経 |
骨格筋は体重の約40%を占め、数は400種類以上。骨格を動かし身体活動や姿勢保持の役割を担う。 意思によって制御できることから随意筋と呼ばれ、体性神経に支配される。
骨格筋の中には横紋と呼ばれる縞模様があるため横紋筋とも呼ばれる。
平滑筋は長細い紡錘状の平滑筋細胞によって構成される。
内腔を持つ臓器の筋層や、血管壁、皮膚の立毛筋、眼球の瞳孔筋や毛様体筋として存在する。
骨格筋とは異なり、意識的に動かすことのできない不随意筋。自律神経によって支配される。
心筋は、横紋構造を持つ心筋細胞によって構成される横紋筋である。
※横紋筋ではあるが、平滑筋と同様に不随意筋に含まれる。
心筋は心筋層を構成する固有心筋と、興奮の自動発生とその伝導を行う特殊心筋に分けられる
心筋細胞は介在板によって細胞同士が結合され(ギャップ結合)、この結合の働きによって
心筋細胞の興奮が隣接した細胞に伝わり、心房・心室の全体が興奮することになる。
骨格筋の各部の名称
1つの骨格筋は通常、2つの付着部を骨にもつ。筋は腱によって骨と付着し張力を骨格に伝える役割がある。
各名称について
- 起始:筋が付着する部位のうち、身体の中心に近い側
- 停止:筋が付着する部位のうち、身体の中心に遠い側
- 筋頭:筋の起始側
- 筋幅:中央部の筋の本体
- 筋尾:筋の停止側
収縮の種類
筋長が短くなりながら張力を発揮する収縮。
筋長が長くなりながら張力を発揮する収縮。遠心性収縮は求心性収縮よりも大きな力を発揮する。
筋長が変化せずに張力を発揮する収縮。
骨格筋の形状による分類
名称 | 読み方 | 詳細 |
---|---|---|
扁平筋 | へんぺいきん | 筋繊維は平行に走行。しばしば腱膜を持つ |
羽状筋 | うじょうきん | 筋繊維が羽状に走行する筋 |
紡錘状筋 | ぼうすいじょうきん | 丸く太い筋腹と細い両端を持つ形状の筋 |
多頭筋 | たとうきん | 起始となる2頭以上の筋頭を持つ |
多腹筋 | たふくきん | 収縮する筋腹を2つ以上持つ筋 |
方形筋 | ほうけいきん | 形状が正方形に近く、4辺の長さがほぼ等しい |
輪筋・括約筋 | りんきん・かつやくきん | 身体の開口部を取り巻く筋で、収縮によって開口部を締める |
関節
関節とは骨と骨を繋ぐ役割があり肩や肘(ひじ)、あるいは股や膝や足首や指など
人の体には全部で68個もある。
これらの関節を動かすことで、歩いたり、しゃがんだり、物をつかんだりというように
私たちが日常生活を営む上で必要な動作が可能となる。
連結の分類
骨同士の連結(広義の関節)は、可動性の有無で分類される。
可動性のない連結は不動性の連結と呼ばれ、骨と骨の隙間が組織によって埋められている
隙間を埋める組織としては
- 繊維性の連結:結合組織が埋める不動性の連結(靭帯結合、骨間膜、縫合など)
- 軟骨性の連結:軟骨組織が埋める不同性の連結(軟骨結合、繊維軟骨結合)
- 骨性の連結:骨組織が埋める不動性の連結(骨結合)
に分類される。
可動性のある連結は滑膜性の連結(狭義の関節)とよばれ、骨と骨の間に関節腔という隙間があり
その中を滑液(関節の動きを潤滑にする役割がある)が満たす。
関節の構造
・関節軟骨は骨の関節面を覆い、骨同士の接触の衝撃を和らげる作用を持つ
※関節軟骨は血管やリンパ管が存在しないため、滑液によって栄養が補給される=回復速度が遅い
■補助的な構造
- 関節半月:膝関節に見られ、関節包から伸びる輪状の繊維軟骨である
- 間接円板:顎関節や胸鎖関節に見られ、関節包から伸びる板状の繊維軟骨である
- 間接唇:肩関節と股関節に見られ、関節窩周囲の楔状の軟骨繊維である
・骨端と骨端にある隙間であり、周りは関節包によって覆われており内部は滑液で満たされている。
・関節の周囲を覆っており、外側を繊維膜、内側を滑膜(滑液の生産を担う)という。
・関節包の繊維膜の一部は厚くなり靭帯を形成する。一部の靭帯は関節包から独立している。
・骨幹を包む繊維性の結合組織の膜。関節包の繊維膜に移行。
・神経・血管が多く、骨の横軸方向への成長に関与する
・骨幹と骨端に間に位置する骨組織。青年期以前は骨端軟骨と呼ばれ骨の縦軸方向への成長に関与。
・青年期以降では骨端線へと変化し、骨の成長は止まる。
関節の形状と動き
1つの運動軸を中心に運動する関節の総称
- 車軸関節:関節頭と関節窩(車の軸受のような)からなる。骨の長軸周りに1方向の回転運動を行う。
- 蝶番関節:関節頭と関節窩(はまり込むような)からなる。1方向の回転運動を行う。
- 螺旋関節:蝶番関節が変形したもの。屈曲・伸展時に回旋が伴い螺旋状の運動を行う。
2つの運動軸を中心に運動する関節の総称
- 楕円関節(顆状関節):楕円球状の関節頭とそれに対応する関節窩からなる。
- 鞍関節:双方の関節面が鞍状であり、2つの運動軸を持つ。2方向に運動を行う。
3つ以上の運動軸を持ち、あらゆる方向への運動が可能な関節の総称
- 球関節:半球状の関節頭と浅く窪んだ関節窩からなる。あらゆる方向に稼働性を有する。
- 平面関節:両方の関節面が平面状であり、互いにずれるような滑走運動を行う。
- 半関節:平面関節の一種。強靭な靭帯と関節包、平滑ではない関節面を持つ。
関節とてこ
身体の運動と姿勢制御には「てこの機構」が関与している。
その中でも関節は「支点」としての役割を担っている。
- 第1のてこ:支点が力点と荷重点の間に存在する。有利性は「安定性」である。
- 第2のてこ:荷重点が支点と力点の間に存在する。有利性は「力」である。
- 第3のてこ:力点は支点と荷重点の間に存在する。有利性は「速さ」である。
関節可動域
関節が動く範囲を関節可動域という。
日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会によって各部位の標準的な可動域が定められている。
※参考可動域を覚えることは、クライアントの評価をする上で欠かせない知識となる。
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